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三題噺「ガラス、財布、血」

 

 シアさんとノアさん(こう見ると双子みたいだ)と3人で三題噺をやりました。三題噺とは、3つの言葉を使ってストーリーを作るアレです。3人で1つずつ単語を出してお題を決め、それぞれ書きました。

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           (後述するけど、財布がクソ邪魔)

 

 せっかくなので勝負もしていますが、アンケートにするとそれをツイートした人に票が行きやすいと思ったので、それぞれ適当に3人ずつ選んで読ませて一番良いのを選んでもらう形式にしました。まあなんでそれ以外の見てもらう必要はないっちゃないんですけど、見て感想もらえたらうれしいです。

 ちなみに僕は よにー、ゆきちさん、てのりさんにお願いしました。3人は3/10までに3人分読んで一番良いと思った人のブログに適当にコメントしてください。

 

 シアさん:三題噺『ガラス/財布/血』 - 万物快楽理論

 ノアさん:三題噺競争「ガラス、財布、血」 - クチート使いの随想録

  

 

 

 タイトル : クラック・ガール  

 ガラスの表面に付いている目には見えない無数の傷のことをクラックと言うらしい。中三の頃の担任がそう言っていた。ガラスの理論強度はとても高いけど、クラックに力が集中しちゃうとすぐに割れてしまうそうだ。

 私のことみたいだ。どんなにお金をもらっても、どんなに気持ち良くなろうとも満たされない。常に大切な何かが溢れ落ちていく感覚と、やがて何も無くなってしまうんじゃないかって恐怖に覆われている

 私は何のために生きているんだろうか。

 

 

 教室には見えない壁がある。しかも、誰でも簡単に通り抜けられる壁ばかりではなくて、ほとんどが特定の誰かにしか通れない壁だ。

 数少ない男子生徒が良い例で、誰にでも平等に話し、クラスの人気者の男の子の周囲に壁はあまりないけれど、いつもアニメの話ばかりしている大人しめの男子生徒たちは、小さいけれど確かに壁を形成している。

 私は四方を壁で覆われた世界に棲んでいる。別に息苦しくもないけど、心地良くもない。ここに居る時間がただただ退屈だった。

「何してんのー?」

 肘枕を付き、ぼーっとしていると桂山葵が近寄ってきた。何もしていない、とわかっているというのに、葵はいつもそう言って壁をすり抜ける。

「何もしてないよ」

 いつも通り返すと、ふうん、と興味がなさそうに葵は窓枠に寄りかかった。私も微妙に右側を向いているから、二人して教室を眺める形になる。葵がどこを見ているのかは気が付いたけど、これまたいつものことで、知らないフリをした。

 元々、葵は別の女子グループに入っていた。いや、正確には、そのグループの女王様だった。葵がある読者モデルを好きと言えばみんなこぞってその雑誌を読み耽り、誰かの悪口を言えばみんな同調した。宗教みたいだと感じたことを今でも覚えている。葵が人を殺せと命じれば、本当に殺人をも犯してしまったかもしれない。

 でも、春になって葵はあっさりと失脚した。学年が変わり、私立文系コースに一人の女の子が入ってきたのだ。顔のレベルも同じくらい、趣味も好きなタイプも一緒、普通に考えれば仲良くやっていけそうなはずなのに、葵はその子まで支配下に置こうとした。結果、葵は孤立した。

 新しい女王様が即位すると、誰も葵の言うことに耳を貸さなくなった。気が付けば、あぶれてしまった葵と、何もしていないのに、いや何もしていないからこそ一人の私は一緒に行動するようになっていた。

「あーごめん! 泉水ちゃん!」

 妙に高い声が廊下の方から聞こえ、少しだけ顔を上げる。宮本吉奈が転んで匂坂泉水の服にお茶をかけてしまったようだった。ごめんごめん、とハンカチでスカートを拭く吉奈に、泉水は別にいいよ、と笑っている。妙に仲睦まじい様子の二人はそのままトイレの方へと向かっていった。

 女同士で付き合っているらしい。前に、葵がそう言っていた。

 だからといって、何か思うわけでもない。身体的な壁はあれど、気持ちに枷は嵌められない。恋愛は男女間でないとおかしい、そう決めつけてしまう方が矮小な考えだと思う。

 でも、誰しもそう考えるわけじゃない。

 これ見よがしに葵が顔を寄せる。香水のキツい匂いが鼻を突いた。

「知ってる? あの二人ってさ、毎日一緒に登校して、毎日一緒に帰るらしいよ。しかも手を繋いで。キモいよねー小学生じゃないんだから」

 薄ら笑いが浮かぶ声を話半分で聞き流す。葵が二人を悪く言うのは、葵の好きな男子が泉水のことを好いている、ただそれだけの理由だ。それ以上も、以下もない。

 私に吹聴したところで、広まることなんてないと言うのに、葵の口は止まらない。「泉水の弟も学校で孤立している」だとか「セックスしようとしたけど吉奈の親にバレたから、吉奈の家では遊べない」だとか、良くもまあそんなに嘘八百を並べ立てられるなあ、と逆に感心してしまう。何人かの女子生徒が泉水に嫌がらせをしていると聞いたこともあったから、こうしてあぶれた今でも自分の影響力に酔いしれているのだろう。

「聞いてる?」

 不機嫌そうに葵が目を細める。

「聞いてるよ」

 作り笑いで返すと、葵は安心したようにマシンガントークを再開した。

 私はたまに葵を可哀想だと思う。自分の価値観や意見を絶対だと信じ、周囲にもそれを強いる。都合の良い友人には優しく接し、否定的な考えにはすぐ反発する。病的なまでの独善体質だ。昔はこんなんじゃなかった、とクラスメートが漏らしていたこともあったから、本当は優しい子なのかもしれないけど、生まれ変わりの手ほどきをするほど私が優しくなく、こうやって適当にいなすのが精一杯だ。

 一人ぼっちには慣れたけど、二人ぼっちには慣れそうにない。

 

 

 学校が終わり、私は駅へと向かった。月に数回のアルバイトだ。駅までバスで行き、そこから電車に乗り、二つ先の駅で降りる。駅のトイレで私服に着替え、カラオケボックスまで向かう。

 一応、政令指定都市とかいうだけあって、人はたくさん居るけれど、どこか閑散としていた。郊外に大きなショッピングモールがあるから、買い物は全てそこで済んでしまうんだそうだ。ショッピングモールがあるから駅前が廃れたのか、駅前が廃れたからショッピングモールが賑わうのかわからないけれど、郊外型という分類は後付にも程があるな、とは思った。

「も、もしかして、ハルカちゃんですか?」

 スマートフォンをいじっていると、声をかけられた。ハゲかかった髪に脂ぎった顔、丸々と肥えた身体。今日の客だとすぐに気がついた。こっちは顔も服装も待ち合わせ場所も全て教えているんだから、もしかしても何もないのに。

「そうですよ。今日はよろしくお願いしますね」

 明日には忘れてしまう名前を呼びたくなくて、適当な言葉で誤魔化した。せっかくだからと出会いを楽しもうとする気概と若さはもうない。何かから離れるように足を進める。

 若者で溢れる繁華街から通りを一つ離れるだけで、風景はがらりと変わる。チェーンの居酒屋やカラオケは小洒落たバーや風俗店になり、そのキャッチは高そうなスーツを着たホストになる。まるで見えない壁を一枚隔てているみたいに、きれいに住み分けがされている。

 今や私はこっち側の人間だ。するりと壁を抜けて、ずんずんと前に進む。一人で歩いているとホストに話しかけられることも多いけど、横に恰幅のいいおじさんが居るからか何も言ってこない。怪訝そうな顔をして、こっちを見ているだけだ。

 家に入るみたいな自然な足取りでラブホテルに入る。最近見つけた穴場だ。支払いは自動精算機があるから従業員と基本的に話さない。一つ一つの部屋は狭いけど、たくさんあってパネルで選べる。外観はただの廃れた雑居ビルだからか、客も少ない。絶好の場所だ。これで儲かっているんだろうか、と余計な心配までしてしまう。

 部屋に入ると、おじさんは何でもないような素振りを見せながらも、ちらちらと私の方を見ていた。青を貴重とした部屋だからか、まるで深海魚みたいだ。

 服を抜きながら、お金。二万円。前払いで、と突慳貪に手を出す。おじさんは、ああ、ととぼけたような返事をしながら、ポケットをまさぐった。しわくちゃになった紙幣を財布にしまい、適当に服を脱ぐ。裸になってベッドに横たわると、ますますおじさんがアンコウのように見えた。

 裸の中年男がのしかかってくる。身体中に舌を這わせ、私の全身を味わってくる。重く、臭いが耐えられないほどではない。声を押し殺すフリをして、申し訳程度に喘ぐ。

 最初こそ中年男性の独特の臭いに嫌悪感を覚えたものの、行為を重ねるにつれ何も感じなくなった。相手が読者モデルみたいなイケメンだろうと、二度見してしまうくらい醜男であろうと、結局のところ、性器が剥き出しになった財布でしかないわけだから、

最終的にお金が入れば何だっていい。シャワーを浴びれば、臭いも嫌悪感も全部流れ落ちて、私はただの女子高生に戻ることができる。

「ハルカちゃん、可愛いのにどうしてこんなことしてるの?」

「どうしてだと思います?」

 質問には質問で返すようにしている。そうすれば相手は好きなように想像を巡らせ、都合の良い回答を提示してくれる。楽なもんだ。

「どうしてかなあ」

 あはは、とおじさんは薄くなった頭をかいた。

「すみません。そろそろ私、時間なので帰りますね」

 返事も聞かずに部屋を飛び出す。人の良さそうなおじさんは呼び止めてくることも、追いかけてくることもなった。

 何のためにこんなことをしているのか。

 聞きたいのは私の方だ。

 

 

「あー楽しかった!」

 突然、聞こえてきた声にどきりとした。声の方に視線を向けると、二人の女の子がカラオケボックスから出てくるところだった。泉水と吉奈だ。よほど楽しかったんだろう。

 吉奈は満面の笑みを湛え、そうだねえ、と相槌を打つ泉水の声もしわがれている。二人は路地裏に佇む私に気が付くことなく、駅の方へ向かっていった。

 わざと距離を空けて、私も駅に向かう。二人の足取りは妙にゆっくりで、気を付けないとすぐに追いついてしまう。人波に呑まれながらも、両の手はしっかりと繋がれているのが見える。

 本当に付き合っていたんだなあ、と今更のように思った。話は聞いていたけど、物語の登場人物みたいにどこか現実味がなかった。

 二人は時折、顔を近づけおかしそうに笑う。つい声をかけそうになってしまう気持ちを堪える。ろくに話したことのない私が話しかけて何になるんだ。

 少し見ていたいけど、見られたくない。二つの想いが私の中で徂徠する。

 不意に、二人が立ち止まった。釣られて、私も立ち止まる。

 その時、私は世界で一番きれいなものを見た、と思った。

 バス停の前で泉水と吉奈が寄り添っている。泉水は、穏やかな笑みを湛え、吉奈は潤んだ瞳で笑っている。燦然と煌めく夕陽に照らされ、二人の形がぼやける。明日また学校で会えるというのに、二度と会うことが出来ないような哀愁が漂っていた。

 言葉が出なかった。心の中に潜む意地も虚栄も、驕りも何もかも全て掻っ攫われた気分だった。

 互いを想い合う二人はきれいだ。

 きれいだから、みんな壊そうとするんだ。

 自分の醜さに気が付かないように。自分だけが劣等感に苛むことのないように。普通という名の大義名分を掲げ、異分子と扱い、みんなで拳を振るうんだ。

 本当に、馬鹿みたい。

 でも、私が何を言えただろうか。

 踵を返し、駅とは反対方向に向かう。かなり遠回りになるけど、どうでもいい。爪先が落ちていた缶ジュースに当たって、カランコロンと間抜けな音を立てた。中身が入っていたみたいで、靴下にまで染みてしまっている。溢れた黒っぽい液体はのように見えた。

 

「さいあくー」

 葵の間延びした声で目を覚ました。いつの間にか眠っていたようだった。反射的に時計を見やると、昼休みに入ったばかりだった。いつ眠ったのか、そもそも本当に眠ったのかどうかもわからなかった。目の前には、コンビニで買ったサンドウィッチのゴミとお茶のペットボトルがあるから、お昼はちゃんと食べたようだ。

「どうしたの?」

「なんかこの前のテストの点が悪かったから呼び出しくらった」

 なんか、を強調して葵は下唇を出す。自分は悪くないという言い分が何故か可愛く思えて、「頑張って」とらしくもなく、ほんの少しだけど気持ちを込めて応援してみた。葵は反射的に「おうよ」と拳を握り、そのあと恥ずかしそうに頬をかいた。それこそ葵らしくなかったけど、もしかしたらこれが本来の葵の姿なのかもしれない、と思った。

 手を組み合わせ、背筋を伸ばす。もう一回寝ようかな、と机に伏せたところで

「やっちゃう?」

 喧騒を縫って、悪意をたっぷり含んだ声が聞こえてきた。反射的に顔を上げる。教室の後ろで数人の女子生徒がたむろしていた。葵が以前いたグループの女の子たちだ。一人が遠慮もなしに泉水の机を漁り、ハンカチを取り出した。あれは吉奈が貸したハンカチのはずだ。もう片手にはハサミが握られている、何をしようとしているのかは一目瞭然だった、

 ふと周囲を見渡すと、私以外にも勘付いた生徒も居るようだった。けれども、彼らはまるで怖いもの見たさのようにちらちらと伺うばかりで、何かアクションを起こすようには見えない。

 泉水と吉奈の味方は誰も居ないんだ。

 そう思った瞬間、心の奥底にすーっと何かが流れ込んできた。その冷たい何かは私の中を奔流し、一滴足りとも溢れることなく空っぽの器を満たす。身体は熱いのに、不思議と頭の芯は冷えたままだ。

 ああ、そうか。今気が付いた。私は怒っているんだ。

「ふざけるなよ」

 ゆっくりと立ち上がり、泉水の席へと歩いていく。彼女たちも、何でもないような顔をしているクラスメートたちも誰も、目先の興味に気を取られ私の姿が見えていない。

 イライラする。汚い手で光を蝕もうとする彼女たちに、傍から見えない針を刺すクラスメートに、そしてこんなにもきれいなものを見て見ぬ振りをしていた今までの自分に。

  人は簡単に変われない。そんなことくらいわかっている。醜い傷だらけの私が変われるとも思っていない。でも、こんなことまで見過ごすほど私は腐ってはいない。

 机の横を通り過ぎ、背後のロッカーを蹴飛ばした。振動で花瓶が落ち、耳障りな音を立てる。中身が溢れ、破片が散らばる。教室内は水を打ったように静まり返った。

 ハンカチをひったくり、見せびらかすようにひらひらと振った。

「これってさ、吉奈のハンカチだよね」

 何人かに視線を合わせると、みんな気まずそうに目を逸らした。

「な、なんでハサミなんて持ってんの? もしかして切り刻もうとしてたわけ?」

 緊張で声が震える。焦りが鼓動を早くする。どうして柄にもなくこんなことをしているのか自問自答したくなる。でも傍観者で居させてたまるか。ここに居る全員が証人だ。

 ハサミを持つ手を掴むと、その女子生徒は怯えたようにわずかに震え、やがて瞳をうるませた。ズルい、と思った。泉水と吉奈はずっと泣き寝入りしてきたんだ。一滴の涙じゃガラスのヒビは治らない。

 騒ぎを聞きつけたのか、担任がやってきた。割れた花瓶とハサミとを交互に見やり、慌てたようにこっちへ向かってくる。

 後ろに居る葵は困惑を露わにし、目をぱちくりとさせていた。すーっと熱が引いていく。いつもそういう顔をしていたらいいのに、と関係ないことを思った。

 

 担任の事情聴取から解放され教室に戻ると、二人しか残っていなかった。いや、もしかしたら他にも生徒はいたかもしれないけれど、私の目は二人に釘付けとなった。

 泉水は窓に寄りかかり、吉奈は椅子に座り本を読んでいる。その何でもない光景さえ絵になっていた。

 二人と目が合った。少しだけ見つめ返して、そっと逸らす。鞄を掴んでそそくさと教室を出る。悪事を隠している子供のような妙なばつの悪さがあった。

「雫さん」

 一歩遅れて自分の名前を呼んだのだと気が付いた。学校で名前を呼ばれたのは久しぶりだった。

「ありがとね」

 丁重に泉水が頭を下げる。何を言うのかは予想が付いた。ちくり、ちくり、と痛みが胸を刺す。

「私も吉奈も人付き合いが上手い方じゃないからさ、たまにああいうことされて困ってたんだ。でも、雫さんが助けてくれて嬉しかったし、その、なんていうか、スカッとした」

 違う。

「みんな気が付いていたのに、助けてくれたのは雫さんだけだった。本当にありがとう」

 違う。「違うんだよ」

 二人してぎょっとしたように目を見張った。思わず口から溢れてしまった言葉は、静謐な空間の片隅で鎮座している。もう見て見ぬ振りは出来ない。す、と息を吸い込んだ。

「私は二人のために助けたんじゃない。自分のためだよ。私にとって二人は光だった。二人を見ていればまた輝けるような気がした。私はその道標を壊されたくなかっただけなんだ」

 息も絶え絶えに言葉を絞り出す。自分の気持ちを吐露することがこんなにも苦しいだなんて知らなかった。

「でも、雫さんは助けてくれた」 

 あっさりと吉奈は言う。その一言だけで、胸のつっかえが取れたような気がする。不思議な気分だった。

「だから、というわけでもないんだけどさ」と改まったように泉水が右手を差し出した。窓から淡い日差しが注がれ、彼女の手に光が溢れる。「友達になって欲しいんだ」

 友達になって欲しいと言われたのも、凛とした笑顔を向けられるのも初めてだった。もっと言えば、自分の気持ちを真摯に伝え、それに応えられたのも初めてだ、嬉しいはずなのに、一気に色々なことがあったせいで思考が付いていかない。頭の中がごちゃごちゃする。どういう顔をしたらいいのかわからない。なんて言ったらいいのかわからない。

 私も、と吉奈も手を伸ばした。二つの手の隙間は、未来へと繋がる希望の扉のように思えた。

 ――クラックガラスって知ってるかな。

 その時、耳元で優しい声が鳴った。眼鏡をかけた白衣の男性がビー玉を摘み、穏やかな笑顔を浮かべている。「熱したビー玉をすぐに冷やすと中にヒビが入るんだ。光が反射してとてもきれいなんだよ」

 優しくも力強い声は希望の象徴だ。嫌いだったはずのその声も、今はちゃんと耳を傾けることが出来る。

「これから先、生きていけば深く傷ついてしまうこともあるかもしれない。でも傷が付いても割れてしまうわけじゃない。寧ろ、光を反射し、きらきらと輝ける存在になるかもしれない。もし辛いことがあった時はこの話を思い出してください」

 こんな臭い話だったけかな。生意気を絵に描いたような私たちに、こんな話を大真面目な顔でしていたんだ、と今思うとちょっと面白い。面白くて、涙が出そうになる。でも、その言葉がちゃんと心に響いたから、私は忘れきることが出来なかったんだと思う。

 いつのまにか瞑っていた両目をゆっくりと開ける。淡く滲んだ世界の中でも二人の姿だけは鮮明に映っている。私が今まで生きてきたのは、きっとこの瞬間のためなんだろう。

「よろしく」

 右手を差し出し、手と手を重ね合わせる。

 光の欠片を授かる私の右手も確かに輝いていた。

 

 

 

 おわり。

 

 

 

 

 

 途中からお題無視していることに気が付いたので無理矢理入れました。財布が邪魔すぎてどうしようかと思いましたね、本当に。普段の短編のノリで書いたら思いの外長くなっちゃって端折ったので描写が中途半端なのが反省点です。次はもっと短くまとめたいです。

 また誰かやりましょう。